繋【ツナグ】:
 つなぐ。つながる(ア)結ぶ。結び合わせる(イ)しばる(ウ)連ねる(エ)つなぎとめる/つながり。系統/ひも。つな/かける(ア)かけ下げる(イ)つなぎ結ぶ(ウ)関係する。関係づける/


 ペコはベッドのなかで足を抱えて縮こまり、腰に残る重い痛みに小さくうめき声を上げている。
「大丈夫?」
 部屋に戻ってきたスマイルが申し訳なさそうにそう聞いた。顔を上げると、肩をすくめながらこちらをじっと見下ろしている。
 ペコはスマイルが両手に持つカップに目を止めて、無言で体を起こした。手を伸ばすとスマイルも無言でカップを差し出してくる。ペコは温かな紅茶の香りを肺の奥まで吸い込み、何度か息を吹きかけながら、あらためて大きくため息をついた。
「腰、いてーっ」
 うなり声を上げると、ベッドに寄りかかるようにして床に腰をおろしていたスマイルが驚いて肩を揺らした。
「……ごめん」
「いいけどよ、別に」
 素っ気無く呟いてペコは紅茶を飲む。スマイルはしばらくのあいだペコの顔をみつめ、なにも言わないまま、あさっての方向へと向き直った。
 時折窓に吹き付ける強い風にペコは顔を上げた。いささか気まずい空気が嫌で、「こっち来いよ」とスマイルの肩の辺りを引っぱり上げた。スマイルは遠慮がちに腰を上げて、ペコの隣に並ぶようにしてベッドに座り込んだ。
「腹減った」
 ぼそりと言うと、「ラーメンならあるよ」とスマイルが答える。
「あとで作って」
「了解しました」
 ようやく二人は顔を見合わせて、小さく笑いあった。
 スマイルはカップをテーブルに置くと、そっとペコの髪を梳き、静かに抱き寄せた。首筋に軽く唇が触れるのを感じながら、ペコはなんだかなぁとぼんやり考えている。
 去年の十二月、ペコの誕生日のことだった。酔った勢いでスマイルに告白された。以来キスだとかそれ以上のことだとかが二人のあいだで繰り広げられているのだが、さすがのペコも、まだ率先してそれらのことをしようという気にはなれなかった。
 スマイルのことは嫌いではなかったが、戸惑いもあるし、照れもある。それでいながら本気で拒絶出来ないのは、ふとした瞬間にスマイルが見せる表情のせいだ。どことなく寂しそうな、悲しそうな、すがりつくような目をされてしまうと、喉まで出かかった「嫌だ」という言葉を飲み込まざるを得なくなる。
 ――ずりぃよなあ。
 多分スマイルはそんなことなど気付いていないに違いない。その無意識の要求が、ペコだけでなくスマイル自身をもがんじがらめに縛りつけているというのに。
「…ペコ?」
 不思議そうにみつめられて、ペコは一瞬返事に詰まる。気を取り直して「ラーメン作って」と言うと、
「少々お待ちください」
 冗談のようにそう言って、笑いながら軽く唇を重ねてきた。
 残念ながら、まだそれを手放しで受け入れることは、ペコには出来ない。


ペコ:片瀬高校二年二月/2005.01.16


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