秋【シュウ】:
みのり。穀物が熟する/あき。四時の一つ(ア)陰暦では、七・八・九月(イ)五行の金、方位の西、五色の白、五音の商などに当てる/とき。大切な時期/とし。としつき/
開け放した窓から涼しい風が吹き込んでくる。風間はベッドに横になり、頬杖を突くようにして夜空に浮かぶ満月を見上げている。その向かい側では同じように空を見上げた孔が、小さくあくびを洩らした。
「眠いか」
かすかに笑いながらそう聞くと、孔は照れたように笑い返しながら「少し」と呟いた。
「仕事が大変なのか?」
「そうでもない。ただ、来月地区大会がある。新しい練習メニューを組む。考えるのに、時間がかかる」
そう言いながら、二人のあいだに置かれた皿からお萩を手にとって口へと運んだ。
風に吹かれて窓際のススキがわずかに鳴った。その音につられたように風間は視線をそらせ、月を隠すように雲が流れるのをみつめた。
大学の秋季大会が終わり、風間は久し振りに孔のアパートへ遊びに来ていた。九月だし、ちょうど今夜は満月だ。花屋でススキを買い込んで、団子代わりのお萩をつまみに、二人は月見と洒落込んでいる。
「あまり無理をするな」
「わかっている」
孔は先月藤沢の駅で倒れたばかりで、以来、どうしても彼の体調が気になってしまう。それを知ってか、指についたあんこを舐めながら孔は「ありがとう」と笑った。
――いつもそばに居てやれれば、
そうすれば、こんなに心配をする必要も無いのだが。
「大会はどうだった」
話題をそらそうと孔が話を振った。
「優勝は逃してしまった。団体戦は難しいな。一人一人の責任が大きいからプレッシャーも強い」
「風間もプレッシャーを感じるのか」
「私だとて人間だ。不安もあるし、負ければ悔しい」
そう言って風間は苦笑した。
「だが今は純粋に卓球が楽しい。…こんなことを感じるのは初めてだ」
「そうか」
呟くようにして孔は言い、眠そうな目で笑ってみせる。そのままごろりと仰向けに寝転がり、ベッドの縁から頭を落として月を見上げた。
「…きれいだな」
「ああ」
雲は風に流されてどこかへと消えていた。まん丸の月が夜空にぽっかりと浮かぶ姿は、どこか幻想的で、それでいて戯画でも眺めているようなおかしな心持にさせられる。
ススキが風に揺れてかすかに鳴いた。
ふと視線を孔に戻すと、目を閉じて小さく寝息を立てていた。風間は笑みを洩らし、起こしてしまわないようそっとベッドの上で身じろぐと、静かに息を吐き出した。そうして涼しい風に吹かれながら、いつまでも孔の寝顔をみつめていた。
風間:大学一年九月/2004.09.19