創【ツクル】:
きずつける。きずつく/きず。きりきず/かさ。できもの/はじめる。はじめ。はじめて/つくる。はじめてつくる/
月本はお社の前の石段に腰かけたまま、割れたレンズの向こう側をすかし見ている。ヒビの入ったレンズのなかでは星野が手水場で顔をがしがしと洗っていた。そうしてハンカチを持っていないのか、濡れた顔と両手を目いっぱい振って水を跳ね飛ばしている。
「メガネ割れた?」
「割れた」
星野が居ない隙を見計らっていじめっ子連中にこの神社へと連れてこられた。そうして小突かれているところを、いつものように星野が助けてくれたのだ。どうしてそんな上手い具合に自分をみつけられるのか、月本は本当に不思議だった。そう言うと、あいつらの考えてることなんかすぐわかると言って星野は笑った。
「今度あいつらにメガネ代請求してやればいいじゃん」
あっけらかんと星野はそう言い、隣に腰かけてきた。
「っつうか、たまにゃあやり返せよ、お前。石じゃねえんだからさ。蹴られりゃ痛えんだろ?」
「うん…」
もごもごと答えながら月本は割れたままのメガネをかけた。そうしてゆがんだ視界のなかで、星野が何故かふてくされたような顔をしてこちらを見ているのに気付いた。
「お前ってホント、変な奴な」
月本は星野が後ろ頭にかぶっているお面をちらりと見て、
――星野も結構変な奴だよな。
そう思った。
「それ? この前言ってたの」
「おうっ」
星野は嬉しそうに返事をすると、頭の上に乗せていたお面をかぶりなおしてポーズを取った。
「ピンポン星人、参上!」
「……」
なんと返事をしたら良いのかわからなくて、月本は無言でお面をみつめる。そうしてひどく真面目にポーズを取っている星野があまりにもバカらしくて、つい小さく苦笑を洩らしてしまった。
「どこに売ってたんだよ、そんなの」
「売ってたんじゃねえよ、ピンポン星の人からもらったんだって。変身する時はこれ使えって」
星野は真剣な顔でそういい募る。月本は言葉もなく、ただ首を傾げるだけだ。
「あ、わかった」
不意に星野がそう言った。そうしてお面をはずしながら、
「お前、今から『スマイル』な」
「――え?」
「あだ名だよ。どうせいっつも笑わねえんだからさ、あだ名で笑っとけや」
「…変なあだ名」
「うっせ。んーで、俺は『ペコさん』な」
「ペコ?」
「ペコさん」
「……ペコ」
しばらく星野は考え込むような顔をしていたが、やがて「ま、いっか」と呟いて立ち上がった。
「道場行こうぜ。打球練習付き合ってやるよ」
「うん」
――こうして月本はスマイルになり、星野はペコになった。二人が出会ってから二ヶ月ほどが過ぎていた。
「ヒーロー見参!」
「もういいよ」
スマイル:片瀬小学校三年六月/2004.07.20