綴【ツヅル】:
(ア)つなぐ(イ)つくろう。なおす(ウ)作る/とじる。縫いつける/つづり。とじ/ふち。ふち飾り/飾りをつける。あやをそえる/とどめる。やめる/
文字にはその人の性格が出る、という話を聞いて、孔は思わず吹き出してしまった。
自分の文字を見れば、やや右肩上がりの子供っぽい字、どこか落ち着きがなくて全然きれいでなくて、どうしても昔から好きになれない。
だけど吹き出したのは別の理由だ。
『男の癖にやわらかい字だ。不思議だな』
手帳に書かれた風間の字。海王の寮に電話をかける為に何度も見返した風間の文字。やわらかくてやさしくて、外見からは想像もつかないほどきれいな文字。
日本に居た頃に使っていた手帳を、何故か捨てられなくて上海へ持ってきた。今更見返したところで得られる物はなにもない筈なのに、そこには記憶している以上の思い出が詰まっていた。文字を見返せばいつなにを、なんの為に書いたのかが思い出せる。書いた相手の顔も、その時の表情も。
『なにか私に手伝えることはないのか』
耳の奥に残る風間の声を思い出す。文字通りにやさしい男。底なしともいえるほどに心の広い、いとしい男。
年明けに葉書をくれた。電話をもらった時に礼を言ったら、「海外に年賀状を出すのは初めてだ」と笑っていた。三月に大学を卒業するそうだ。お互いあわただしい生活は変わらない。たまに手紙でも書こうかと思ったりはするけれど、日本に五年も居ながら平仮名を書くのは苦手だった。読むには読めるけれど、思い通りにあやつるまではいっていない。
結局孔は、迷った末に一言だけ書くことにした。
桜の咲く頃には会いに行こう。三月の頭にはユースの方で大きな試合がある。それが終われば休みがもらえる。あの大好きな花を、風間と一緒に見に行こう。絵葉書の表に書き込んだ風間の住所と名前を眺めて孔は微笑む。
たった一言だけの、想いの全て。
――今度会ったら言ってやる。
風間はどんな顔をするだろうか。まさか意味がわからなくて困りはしないだろうが――言葉よりも文字よりも、なによりやさしい口付けで応えてくれれば、それでいい。
百の言葉よりも、あの腕のなかに、ただ居たい。
孔:ユースのコーチ一年目二月/2004.04.22