毛布をかぶらないと寒い季節になったんだ、孔は体の奥まで風間のものを受け入れ、爪先まで痛みと快感にしびれながらぼんやりとそう思った。
 風間は孔の体に覆いかぶさり、そうしておいて指だけで毛布を引っぱり上げ、肩までかける。そして、セット完了、とでもいうように小さく笑い、ふと孔の頬に手を触れた。
「どうした」
「なに…」
「泣いているぞ。辛いか」
 孔は小さく首を振って風間の首に両手をかけた。
「いい。大丈夫」
「無理をするな」
「いい…」
 ――お願いだから。
 風間は孔の目元に軽く唇をつけて舌を動かした。その生温かくやわらかい感触に、たまらなく悲鳴が洩れた。
「ん…っ」
 そうしてもう一度孔をみつめる。
 心配するような瞳がいとおしくてたまらない。
 ――お願いだから、滅茶苦茶にしてくれ。
「は…っ、あ」
 風間が腰を引いた。そして突き上げられる。
「ん…や、……あ…!」
 とたんに、全てを忘れた。
 暗がりのなかで風間の体がぼんやりと浮かんで見える。孔はその首にしがみつき、体の熱さを感じ、体の奥が受ける快感だけに集中しようとする。
「あっ…あ、は…っ、」
 首筋に風間が唇をつけて、きつく吸い上げる。
「や…だめ…」
 甘えた声で言い、叱るように背中を叩くと、風間は顔を上げて残念そうに笑った。
 この時ばかりは本当に男の顔になる、と孔は思う。自分を気遣いながらも、どこか征服欲にまみれた雄の顔。その顔を見るたびに体の奥が熱くなり、もっとひどくしてくれと心の底から願ってしまう。
「駄目か?」
「駄目。あと、つく…」
「つけたいのだが」
「駄目。見える」
「それは残念だな」
「あ…は、あ!」
 一度深く突き上げると、風間は孔の体を抱きしめた。応えるように強くしがみつくと、不意に体を持ち上げられた。え、と思う間もなく、二人は向かい合って座っていた。
「は…んっ、」
 自分の体の重みのせいで、ずうっと奥まで風間の存在を感じる。背筋を痛みと快感が走り、孔は思わず風間の背中に爪を立ててしまう。なだめるように風間が重ねてきた唇を夢中で吸った。
「ん…ふ…っ」
 風間の手が孔の髪をかきあげる。唇が離れると、風間はそのままベッドに横になった。いつもとは反対に、自分が風間の上に座る恰好となる。なにをする気だと半ば恐怖と共に風間の顔を見下ろすと、おかしそうに笑っていた。
「自分で動いてみろ」
「……いやだ…っ」
「ほら」
 そう言って、下から二三度突き上げてくる。
「はあ…あっ!」
「さっきより感じてるぞ」
「ば…っ」
 それでも、体の奥でくすぶる熱に突き動かされるようにして、孔は腰を上げた。肉がこすれあう快感のあまりの深さに、声にならない悲鳴が洩れた。腰をおろすと、信じられないほど奥まで風間の存在を感じる。
「ん…ん、あ……はあっ」
 恥ずかしくて逃げ出したいのに、風間は両の手首をつかんでじっとベッドに固定してしまっている。腰だけがまるで別の存在になってしまったかのように、ただ快感を求めて上下する。
 ふとした瞬間、恍惚の表情でこちらを見上げる風間の視線に気付いた。
「…見るな…っ」
「何故だ」
「や、だ…やぁ、あ…!」
「もっと聞かせてくれ」
 熱を帯びた声でそう言って痛いほど手首を握りしめる。
 その痛みが、気持ちよかった。
 ――滅茶苦茶にしてくれ。
「ん…ふ、んぁ……っ」
 わざと逃げるように手を引いた。風間はそれにあらがうように更に力を込める。
 孔はまた首を振った。髪がはねて額にかかる。
「や…あ、……か、ざま…っ、放せ、よ…!」
「こちらが寂しいか」
 そう言って不意に片手を離すと、その手で孔のものを握った。
「ひ…っ!」
 後ろと前と、両方いっぺんに刺激を与えられて、孔は我を忘れた。ただ達しようとひたすら腰を上げ、深くまでおろした。風間の手がもてあそぶかのように孔のものをつかみ、放す。
「いや…や、」
 思わず懇願するように声を上げた。自分が発する鼻にかかった甘い言葉に、自分で恥ずかしくなる。それを楽しむかのように風間は小さく笑い、
「なんだ…?」
「……や、かざま…っ」
 潤んだ瞳で見下ろすと、ようやく風間は孔のものに手を伸ばした。やんわりと握って、孔の腰の動きと反対になるように手を動かす。
「はあ…! あ、あ…っん、ん!」
「いやらしい声だな」
 なにを言われても、もうわからない。ただ目をつぶってひたすら頭を振った。早く達したい、体の奥の快感に身を任せながらそれだけを考える。
 不意に風間の手が離れて、また抱き寄せられた。そのまま寝かされ、両足を抱え込むと、風間は一気に突き上げてきた。
「ひゃ…あ! あんっ、はぁっ…!」
 そうして、またいつものように風間の首にしがみつく。風間が突き上げるたびに喉の奥から声が洩れ、それにあおられるかのように風間の動きが激しくなった。
 ずっとこのままで居たい、孔は意識の底でそう思う。この快感に溺れたまま、なにもかも忘れてひたっていたい。いつか離れていってしまうという想いが、いっそう離れたくないと思わせる。何故離れなければならないのか。今自分だけを見る風間の瞳を、くりぬいて取り出して、自分だけのものに出来るなら、
 ――もう、なにもいらない。
「あ…かざ、ま…ぁっ」
 熱い手を髪のなかに差し入れ、強く抱き寄せた。耳元、頬、そして首筋へと風間は唇を当て、孔に口付ける。まるでむさぼるように互いの舌を吸い、深く息を交わす。
「……ふ…っ、んん…!」
 風間の動きが更に激しくなる。終わりが近いのだと悲しくなり、同時に早く終わってくれと願ってしまう。
 快感の波にあおられながら、俺はこれが大嫌いだと思う。
「は…あ、…あっ、あ…っ!」
「……っ」
 大嫌いだと思いながら、それでもこの時だけは、風間が俺を平気で嫌う。嫌われて、もっとひどく扱ってくれと、心の底から願っている。


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