いくら噛み殺そうとしてもうめき声が洩れてしまう。足元にうずくまるようにしてジェイが舌を使い、そのたびに止めようもなく快感が爪先まで走り抜ける。
「ん…っ、はぁっ、あ…っ」
 足を広げるとどうしてこんなに気持ちいいんだろう。ペコはそう思いながらソファーに座ったまま爪先を床に着けて、自分のものを煽るジェイの舌の動きだけを感じようとする。
「は…っん!」
 不意に双丘のあいだにジェイの指が忍び込んだ。
「ん…っん、や…ぁっ!」
 思わず待ったをかけるようにペコはジェイの髪の毛をつかんだが、舌の動きは止まらず、指は更に奥まで挿し込まれ、なかを探るジェイの指の動きに思わず背中をのけぞらせて悲鳴をあげた。
「はぁ…っあ、あ…やっ、や…っ」
 その反応を待っていたかのようにいきなり指の数が増えた。
「あ……あっ!」
 ジェイは舌先でペコのものを舐め上げると先端をくすぐり、もう片方の手で刺激し始めた。そうして髪をつかむペコの手をわずらわしそうに払い、じっとこちらをみつめてくる。
 緑色の目がおかしそうに笑っている。
「や…っ、みんな、よ…ぉっ」
「痛い?」
 そう英語で聞かれて、初めて自分が日本語を使っていたことに気付く。それでもいきなり言葉を変えるのはわずらわしく、ただ首を横に振ることしか出来なかった。
 ジェイの指の動きは執拗で、休むことなく丹念に入口を広げてゆく。
「あ…っん、は…あ…っ」
 ジェイの首に両手をかけて思わずすがるようにみつめ返す。そうして我慢出来ずにそのまま抱き寄せて、自分から唇を重ねた。
 深く舌を絡み合わせるうちに、ペコのものから手が離れた。
「やん…っ」
 むずがるように顔をしかめてもジェイは笑ったままだ。再び唇が重ねられて、行き場のないもどかしさをぶつけるかのように、ペコはジェイの舌を吸う。
「ね…早く…」
 甘えた声でペコは言う。
「なぁに?」
 わざとらしくジェイが聞き返す。
「意地悪すんなよぉ」
「それ、日本語?」
「ジェイぃ」
 くすくす笑いながらジェイはペコの首筋に唇をつけて吸い上げてゆく。
「欲しいの?」
「欲しい…ね、ジェイの、早くぅ」
 どうしてこんなに甘えた声が出せるのか、自分でも不思議だった。ただジェイだったらどんなにわがままを言っても平気なような気がして、ペコは欲望のおもむくままにキスを繰り返してはねだってみせた。
「こんな子だとは思わなかったな」
 苦笑しながらペコに口付けると、「いい子で待ってなさい」と言って不意に立ち上がった。
「どこ行くんだよぉ」
 ソファーの上で両膝を抱えてペコは寝室に消えたジェイの後ろ姿を恨めしそうに見送った。やがて戻ってきたジェイの手には、見覚えのある品物がぶら下がっていた。
「ちゃんと避妊しないとね、赤ちゃん出来ちゃったら大変だろ」
「出来るわけないっしょ」
「わからないよ。僕、過去に一度だけ妊娠させたことあるから」
「男に!?」
「女の人に決まってるだろ」
 そう言って具合を確かめるようにまたペコの足の奥へと手を挿し入れる。
「もっとも、この様子じゃ出来ちゃうかも知れないけど」
「ば…っ、あ…ん、ん…っ」
 充分に慣らされた入口は熱を求めてうずいている。再び陶酔したようにペコはジェイの首に両手をかけ、甘えた声でジェイのものをねだる。
「日本でどんな生活してたんだよ」
「…秘密」
 自分にだって理由はわからない。スマイルを相手に、一度だってこんな態度を取ったことはなかった。やけになっているわけでもない。ただ純粋にジェイの体が気持ち良かった。
「いけない子にはお仕置きです」
 そう言ってジェイは自分のものをあてがい、そっと押し入ってきた。
「は…っ、あ…ぁっ、」
「ほら、足上げて」
「やっ…あ、あ…!」
 体のずっと奥までジェイが入り込んできている。張り詰めた内側の感覚に、ペコは我を忘れそうになった。頭を振ってなんとか意識を保とうとする。
「あんなに欲しがってたのに、もうおしまい?」
「ちが…っ」
「嫌ならやめてもいいけど」
「や…っ、やめちゃ、やだ…!」
「いい子だ」
 そうしてジェイはゆっくりと腰を引き、ゆっくりと突き上げる。
「はあっ! あ…っん、ん…! んっ…」
「痛くない…?」
「平気……あっ! あん…っ」
 ゆっくりとしたジェイの動きがもどかしくてたまらない。もっと激しく熱を感じたいと思うのに、嫌がらせをするかのように、ジェイの動きは緩慢だ。
「あ…っん、ね、ジェイ…」
 すがるようにジェイの首に片手をかけてペコは潤んだ瞳で見上げる。その反応を楽しむかのように、ジェイは小さく笑いながら相変わらずゆっくりとした動きで腰を振っている。
「ね、もっとしてよぉ…あっ」
「じらし作戦遂行中」
「やぁ…っ、ジェイ…!」
「だってペコのなか、きついんだもん。ゆっくり慣らさないと」
「平気だよ…ぉ、…あんっ…ね、ジェイってば…」
 体の奥がうずいて仕方がない。時に敏感な一点にかすかに触れながらも、呆気なく通り過ぎてしまう。それがたまらなくてペコは嫌々をするように頭を振った。
「…なんでそんなにいやらしいんだろう」
「え…」
「ホントに我慢出来なくなってきたけど、苦情は聞かないって言ったよな」
 そう言うと、ジェイは不意に激しく突き上げ始めた。
「あ! あんっ、は…っ、あん…!」
 体の奥で激しく肉がこすれあう。痛みと快感がない混ざってペコの体を襲う。両足を抱えられたまま爪先を突っ張らせて、首をのけぞらせながらペコはジェイのものを受け止める。あえぐようにだらしなく開いた口からはとめどもなく嬌声が洩れ、それを聞けば聞くほどにジェイの突き上げは一層激しさを増してゆく。
「あ…んっ、あっ! ジェイ…、あ…っ!」
「吸い付いてくるよ」
「や…っ、言うな、あ…っ、あ!」
「誰にこんなにされたんだよ。やらしい奴だな」
「…あっ! ん、はぁ…っ、あんっ!」
 ジェイの首にかけた手が、すがるように爪を立てる。赤い傷あとがつくのを見ながら、それでも手を離すことは出来なかった。
「一年分の我慢をふいにされたんだから、たっぷり元取らなきゃね」
「やんっ、や! …あぁっ!」
 腰から始まる快感が背筋を通って首の後ろまで突き抜けてゆく。もっとジェイを感じようと大きく足を広げ、それに気付いたジェイはペコの膝の裏を抱えたまま更に押し広げてみせる。
「あんっ、…っあ、ジェ、イ…ジェイ…!」
 ジェイの首に両手をかけてねだるように抱き寄せる。笑いながら近付いてくる唇の奥に舌を差し込んで、夢中になって舌を絡めあった。止めようのない快感の波に溺れながら、セックスがこんなに気持ちいいなんて知らなかったなぁとペコはぼんやり思う。
 スマイルとの行為で感じなかったわけではないが、こんなにも自分を解放して、欲望のおもむくままに互いをむさぼりあうことはなかった気がする。
 スマイルとは、抱き合っていても、寂しかった。
 ――やべ。
 ふと悲しくなって、ジェイの首にしがみついたままペコは頭を振る。ジェイの動きは激しくなり、体が感じる快感だけに集中しようとしたが、意識の底に生まれてしまった悲しみはどうしても消えてくれなかった。
「ジェイ…ジェイ…っ」
 むずがる子供のようにペコは何度もジェイの名前を呼ぶ。快感がありながら、終わりへと近付きながらも、どこまでも悲しくてたまらなくて、ペコは涙をこぼした。
 ジェイはわずらわしそうにペコの腕を払い、激しく腰を打ち付けてくる。
「あんっ! やぁ…あ、ジェイ…っ、も、…やっ! やぁ…っ!」
 やがて互いに達しながら、意識の底でまだ足りないと思いながら、ペコは震える腕を伸ばしてジェイの首に思いっきりしがみつき、
「ペコ?」
 声を上げて泣き始めた。
 自分が吐き出した欲望で腹を汚し、まだ互いにつながりあったまま、それでもペコは寂しくて仕方がなくて、まるで子供のように泣きじゃくった。
「ペコ? …どうした?」
 困惑したようにジェイが抱えていた足をおろして抱きしめてくれる。
「ごめん、痛かった?」
「…違う…っ」
 涙が止まらない。
 ――わかった。
 泣きながらペコは思う。
 やっと、わかった。
 離れているから寂しいんじゃない、そばに居ても、どんなに近くに居ても、あいつはいつも遠かった。どんなに求められても、そうしておきながら、あいつはいつも俺を遠ざけようとしていた。
 俺たちは、
「ジェイ…っ」
 今度は本当にあえぎながら、その合い間にペコはジェイの名前を呼んで、ぎゅうと首にしがみつく。確かにこの体はここにある。スマイルと違うのは、ジェイは自分をきちんと求めてくれる、ただそれだけのことだ。
 ――俺たちは、いつもお互いを切り捨てようと、ただそれだけを考えてつながってたんだ。
 捨てる為に、互いを手に入れようと必死になってただけなんだ…。


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