「んっ…は、あ…っ、あっ」
ペコはスマイルの首にしがみついたままその指の動きに体を震わせる。ペコの腕に力がこもるたびにスマイルの表情が恍惚へと変わり、まるで手のなかの獲物をもてあそぶ肉食獣のような目つきになる。
――こいつ、自分でわかってないだろうな。
快楽に身を任せながら、ぼんやりとペコはそう思う。
そんなスマイルが、ふと憐れになってしまう。そうしてまた逃げ道を求めるように、そして慰めるように、自分から唇を重ねた。
『ペコのせいだ』
そう言われるたびに戸惑いを覚え、スマイルのことが恐ろしくなり、同時に憐れでたまらない。
「やだ…!」
更に指が増やされて、とうとうペコは悲鳴をあげた。スマイルはあわててその口を押さえる。
「声大きいよ、ペコ」
「ん…んんっ、」
あらがうように頭を振るが、スマイルの手は離れない。
「誰かに聞かれたらどうするの…?」
だからやめてくれと言ったのに。スマイルの激しい指の動きに痛みと快感の両方を覚えて、ペコはたまらなくなる。早くやめてくれとも思い、もっとしてくれとも思う。体を震わせるうちに、いつしか苦しみと喜びの両方の涙が流れた。
「ペコ」
慰めるようにスマイルがその涙のあとに口付ける。
「ペコ…大好きだよ」
――俺だって。
俺だって嫌いじゃねえや。
それでも無心でスマイルを求められないのは、そう言われるたびに覚えてしまう違和感のせいだ。
いつかは消えるのだろうか。いつかは素直にスマイルを受け入れられるようになるのだろうか。不意に指が抜かれて、突然訪れた平穏に呆気に取られながら、ペコはスマイルの顔を見上げてぼんやりと考える。スマイルはうかがうようにそっとペコの口から手を離し、
「痛かった…?」
「…少しな」
「ごめん」
「いいよ…別に」
呟いて、まるでひどく叱られた子供のような目をしているスマイルが、また憐れでたまらない。
なんでこいつはいつもこんなに泣きそうな顔をしやがるんだ。まだ荒い息のままペコは手を伸ばして、スマイルの髪をそっとつかむ。互いに探り合うようにゆっくりと唇を合わせて、長い長いキスをした。
「…俺、このままほっとかれんの?」
「え?」
「最後まで責任持てよ、エロオヤジ」
そう言うと、ようやくスマイルが笑った。
「仰せのままに」
もう一度口付けて、そうしながらごそごそとマットのあいだを探っている。
「…なにしてんだ」
唇を離してペコは聞いた。
「準備の為の道具を探してます」
「…まさかハナっから用意してたわけじゃねえよな?」
「偶然に決まってるだろ」
「偶然こんなとこに、そんなもんがあるか!」
そう言って殴ろうとしたペコの手をひょいとよけて、スマイルは上に覆いかぶさる。
「偶然だよ。一昨日、最後の授業が体育だっただけで」
「やっぱ計画的なんじゃねえか、やめた! 俺、帰る!」
「このままで帰れるの?」
そう言ってスマイルはぐいと腰を押し付ける。互いに硬くなったものが触れ合って、ペコは思わず身をすくめた。
「歩くのも大変だよ、これじゃ。正門出られないんじゃない?」
「…のヤローっ」
悔しいが、スマイルの言うとおりだった。それでもなんとか脱出は試みたが、残念ながらわずかながら体格的にスマイルの方が勝っており、ペコはおとなしく組み敷かれたまま「準備」が終わるのを待つしかなかった。
「は…っ」
そろそろとスマイルのものが奥に挿し入れられて、ペコは思わず体を硬くする。そしてゆっくりと息を吐きながら、未だに慣れないその痛みに耐えた。
「あ…あっ、や…」
スマイルの腕をぎゅうと握りしめて小さく首を振る。なだめるようにスマイルの手がゆっくりと髪を撫で上げている。やがて自分のものが全部入りきると、スマイルは大きく息を吐いてペコの体を抱きしめた。
「……今更だけど、よ、なんでこんなとこで…」
けれどスマイルはそれには答えないでただ微笑むと、そっと頬に唇を触れて、ゆっくりと腰を引いた。
「あっ…!」
そうしてまた、いつものように肉食獣の目に戻る。獲物をいたぶる残酷な目。
「はあっ、あ…ん、ん…っ」
「ペコ…」
熱い息が吹きかかる。逃げるように頭を振っても、スマイルの唇は首筋に吸い付いて離れない。一箇所をきつく吸い上げてはそのまま舌先で舐め上げる。そのたびにペコは背筋に悪寒にも似た快感が走るのを感じ、すがるかのようにスマイルの背中に強く抱きついてしまう。
「や…あっ、あん! はっ…あぁっ」
体の奥で肉がこすれあう感触に、ペコは深く酔った。たまらなくなってスマイルの髪に手を差し入れ、強く強く抱きしめる。なのにスマイルはその手から逃れてまたペコの顔を見下ろした。
「は…っ、やだ…ぁっ」
「なにが…?」
「あ…んっ、はっ……あ、あっ」
「ねえ…なにが嫌なの…」
「や…見んな、よぉ…あ! はあ…っ」
「なんで…もっと見せてよ、ペコの顔。気持ちいい…?」
そう聞きながら、スマイルは更に激しく突き上げる。
「やっ、あっ! あっ…!」
「ねえ、気持ちいい…」
「……っ! あんっ、んっ!」
たまらなくなってペコは首を振る。
「嫌なの…?」
そう言って、不意にスマイルは動きを止めた。
「やぁ…っ」
せがむように潤んだ瞳でそっと見ると、スマイルは面白そうに笑ったままじっとこちらを見下ろしている。
「嫌なの? いいの?」
「……っ」
「ねえ、教えてよペコ…」
体のなかでスマイルの熱が上がるのがわかった。ペコは言葉にすることが出来なくて、ただうなずくばかりだ。弱点の耳元に唇を寄せて、またスマイルがささやいた。
「ねえ、言ってよ」
耳元に触れるかすかな息がペコの理性のたがをはずしにかかる。
「……いい」
「いいの?」
舌先で遊んでいるかのようにそっと耳の縁をなぞる。その感触にびくんと体が跳ねて、ペコはもはや我慢することが出来なくなった。
「いい…だから、もっと…っ」
「もっと、なに?」
「…もっとして…!」
その言葉を待ちかねていたかのように、一気にスマイルが突き上げてくる。喉の奥からあられもない嬌声を洩らし、ペコはまたスマイルの腕にしがみつく。
「はっあ、あ…っ、あっ、スマイル…スマイルぅ…!」
ペコの言葉に応えるように強くその手を握り、熱い息を吐きながらスマイルは腰を打ち付けてくる。
「や…っあ、はぁっ! あ、あ…っ! あっ!」
「ペコ…っ」
無意識のうちに涙を流し、自らの欲望に体を汚しながら、悲しい思いでペコはそれを繰り返す。
――俺だって、別にお前を嫌いなわけじゃねえんだ。