スマイルは孔のものを指でやんわりと握り、徐々に力を加えてゆく。ゆっくりと熱を帯びながら、狭いジーパンのなかでもどかしげに立ち上がろうとしていた。
「あ…っ、ん…ん…っ」
 はぁ、と熱い息を吐き出して孔はふと宙をみつめた。恍惚とした表情に吸い寄せられるようにスマイルは首筋に唇を触れ、そうしながら片手で器用にもベルトをはずし、ジッパーを下げる。
「はぁ……あ…んっ」
 きゅう、とものを握りしめると孔は大きく首をのけぞらせた。切なげに目を伏せながらも、安堵したようにため息を吐く。
「あ…っ、ん、ん…ぁっ」
 スマイルの手が動くたびに小さく首を振り、その身をよじり、そうしながらもそろそろと足が開かれてゆく。スマイルは両足を持ち上げると孔の足のあいだに下ろし、膝の下にからませながら大きく開いた。
「や…っ」
「この方がいいんだろ?」
 そう聞くと、孔は恥ずかしそうにうつむいてしまう。それでもやがては再び恍惚の表情に戻り、ため息と共に悲鳴を洩らす。
「はぁ…っ、あ…、…っん、やぁ…っ」
 熱い息を吐きながらすがるようにスマイルの肩に顔を押し付け、そうしてうっとりと夢見るような表情で首筋を吸い上げた。笑いながら振り向くと、自分から唇を重ねてくる。乱れた息のまま舌を絡めあい、そうするうちに、また孔の首筋から立ちのぼる匂いが強くなっていることにスマイルは気が付いた。
「あん……んっ、…あ…あっ」
 孔の体が熱くなり始めている。胸の突起を探るたびに体が震え、ものをさするたびに甘い悲鳴が洩れる。身動きの取れない状態のまま、孔はひたすら快感の波に溺れているようだった。
「このまま手でイク?」
「え…」
 声をかけると、初めてスマイルの存在に気付いたように、潤んだ瞳で見上げてきた。
「それとも舐めて欲しい?」
「……っ」
 あらためて自分がどんな状態なのかを思い出したようだ。今更のように恥ずかしげに唇を噛み、うつむいて、何故か嫌々をするように小さく首を振った。
「じゃあ、こっちがいいの…?」
 そう言ってスマイルは胸をまさぐっていた手をジーパンのなかに入れ、更に奥まで伸ばしてみせた。そうして最深部に指を触れると、孔の体が大きくはねた。
「やあ…!」
 入口は熱を持ちながらひくひくと震えている。まるでなにかの侵入を待っているかのようで、スマイルは誘われるまま奥へと指を挿し入れた。
「あ…っん、や…っ、あぁ…!」
 あわてて足を引き、自由にならない身のままで必死に逃げようともがいてみせる。そうしながらも孔自身はますます熱を帯び、まるで手に吸い付くかのようにしっとりと濡れ始めた。
「はあ…っ、…あっ、ん! ん…やぁ…っ」
 なかを探るスマイルの指の動きに、孔は今まで以上に激しく首を振り、ぎゅうと腕にしがみつく。まとわりつくジーパンが邪魔で、スマイルは一旦両手を抜くと一気に下着ごと引き下ろした。
「やっ…」
 空気にさらされながら孔のものが震えている。孔は顔をそむけて目をきつくつむり、じっと息を殺した。
「見てみなよ」
「…やだ…っ」
「すごいよ、もうこんなだ…」
 そう言ってスマイルは、先端ににじみ始めた汁を指でぬらぬらと広げてゆく。敏感な場所に触れる指の感触に、孔はびくびくと体を震わせた。そうして陶酔したようにスマイルの首筋で熱い息を吐き、ぎゅうと顔を押し付けてくる。
 スマイルは慰めるように頭を撫でて、唇を重ねた。そうしながらも奥へと伸ばした手で再び孔の入口を探り、指でなかを広げてゆく。指の数を増やしながら出し入れを繰り返し、孔が吐き出す悲鳴を甘い睦言のように聞いていた。
「や…んっ、あ…っ、やぁ…! …あっ、」
 ――こんなに、
 こんなにいとしいのに――恍惚のさなかでスマイルは考える。
 孔は自分以外の誰かが好きで、その男に心を奪われたまま、自分の腕のなかで震えている。
 身代わりにしているつもりはない筈なのに、
 ――なんでこんなに似てるんだろう。
「やぁ…あ、…つ、きもとぉ…っ」
「…なに?」
 好きな男のものではない手でこんなにも熱い息を吐き、
 ――もっとしてくれとねだってみせる。
「あん…っ、あ…っ、あ! は…ぁ…っ!」
 孔は火照った体を震わせながらしきりに首筋にキスを繰り返した。その唇の感触に快感を覚えながらも、スマイルはどこか寂しくてたまらない。
 ――誰に抱かれているつもりなんだ?
 名前を呼びながら、甘えた声でねだりながら、この首筋が誰のものだと思っている?
「どうする?」
 そう聞きながら孔の顔を見下ろすと、不思議そうな目で見返された。
「どうやってイク?」
「……っ」
 孔は恥ずかしそうにあわてて顔を伏せ、スマイルの指の動きに体を震わせながらじっと悲鳴を噛み殺す。そうしながらも、やがて小さく呟いた。
「…のがいい…」
「なぁに?」
 わざとらしく聞き返してスマイルは孔の顔をのぞきこんだ。潤んだ瞳でこちらを見上げながらも、孔は小さく首を振る。
「言わないならやめちゃうよ?」
「やだ…っ」
「じゃあ言いなよ」
 意地悪をしたくなるのは、八つ当たりなのだろうか。
 孔は困ってうつむいた。そうして熱い息の合い間に、
「月本のが…欲しい…っ」
 スマイルは思わず孔の体をぎゅうと抱きしめた。そうしてこちらを向かせて、また唇を重ねる。むさぼるように舌を絡ませながらトレーナーを脱がせ、ジーパンを引きずりおろす。自分も蹴るようにしてジーパンを脱ぎ捨てると、そっと孔の頭を押さえた。
「ね、少し舐めて」
「え…」
「ちょっとだけ」
 孔は戸惑ったような表情をしながらもゆっくりと顔をおろしてゆく。そうしてスマイルのものに手を触れて、そっと舌先で舐め上げる。孔の舌の感触に思わず身を震わせながら、スマイルはセーターを脱ぎ、シャツのボタンをはずしていった。
 たどたどしい孔の舌の動きに時折熱い息を吐きながら、たまにはこんなのもいいなとスマイルは考える。そうして同じように熱くなった手で孔の頭を撫で、そっと肩に手を触れた。懐かしい感触にふと我を忘れそうになり、そうしながらも、
 ――そうか。
 孔はずっと前からそう思っていたのだ。自分を抱きながら誰を想っているのだと――気付きながらも聞きはしなかった。言ったのは、たった一言だけ。
『忘れるな』
「…もういいよ」
 わかっていながら、それでいて何故こんなにも熱い瞳でみつめてくるのか。
 スマイルは孔の腰に両手をかけ、手前へと引いた。自分の体をまたがせるようにしながら、「自分でしてみな?」と言う。
「やぁ…」
 孔はスマイルの両肩に手をかけたまま、泣きそうな目でうつむいた。
「欲しいって言ったの、孔の方だろ」
「……っ」
 すがるような目も、笑って見返せる。
 ――誰に抱かれているんだ?
 こっちこそ言ってやる、忘れるな、お前を抱いているのはこの僕だ…。


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