寝室に入ると、ジェイは棚を探り始めた。ペコはベッドに腰かけたままじっとジェイの動きを見守っている。
「まだあったと思ったけどなぁ…あった」
そう言って薄手の缶を取り出した。
「ペコ、甘いもの好きだよね」
「うん」
「これあげる」
缶を開けて三センチ四方ほどの大きさの薄い紙を取り出し、ペコに差し出した。受け取って匂いをかぐが、特になにかの香りがするわけではなかった。色はほのかにピンクがかっている。
「飲み込んじゃ駄目だよ。味がしなくなるまで舐めてな」
「あに、これ」
「昔、友達にもらったんだ。僕はあんまり好きじゃないから残っちゃって」
「ふうん」
呟いてペコは紙を口のなかに放り込む。舐めるとかすかにりんごに似た味が口のなかに広がった。そして不思議なことに胃の辺りが温かくなり、その熱が一気に頭まで突き抜けて、なんだか少しのぼせたような感じがした。
「美味しい?」
「あんまり…それ、あにすんの」
ジェイはタオルと荷造り用の紐を持ってペコの前に立った。
「勿論、あなたの手を縛るんです」
「まじ!? そこまですんの?」
「ずっと手押さえてるのって面倒そうなんだもん。嫌?」
「…別にいいけどぉ」
「じゃあ上、脱いで」
そう言ってジェイは紐をくるくると回す。ペコは渋々トレーナーを脱いだ。
「手、出して」
両手を合わせたまま差し出すと、ジェイは手首にタオルを巻いて、その上から紐で縛りつけた。ぎゅう、と縛り付けられる感覚に、ペコは思わず身をすくめた。
「痛くない?」
「平気」
「少し動かして隙間作りな」
「ん…」
もぞもぞと両手を引くが、既に拘束されているという感覚が強く襲ってきていた。これでどんな目に遭わされるのだと考えると、恐怖と、かすかな欲望がペコの腹の底で湧き上がった。
「さっきの、出しな」
そう言われてペコは舐めていた紙を舌の上に乗せ、ジェイに差し出した。ジェイは指でつまんでゴミ箱に放り投げる。
「どんな感じ?」
そう言ってジェイはかすかに笑いながらペコの顔を見下ろした。
「なんか…すっげー恥ずかしい」
のぼせたような感じに包まれたまま、うつむいてペコは呟いた。ふとジェイの手が頬に触れ、その感触に驚いて顔を上げる。
「もう熱くなってるよ」
「…うそだね」
「ホントだよ」
そう言ってジェイは腰をかがめ、唇を重ねてくる。舌を絡めながらジェイの手が首筋をさすり、腕を握る。そのたびにペコの体は小さくはねた。
「んっ……ふぁ、」
ジェイに触れられるたびに何故か体は敏感に反応し、それが確かな熱となってゆっくりと下半身に集まり始めていた。
「こことかさ」
そう言ってジェイはペコの胸の突起に触れた。
「あ…!」
「…すごいね。腕縛られただけでこんなになるんだ」
くすくす笑いながらペコの腕を押し上げ、舌先で突起をちろちろと舐めては吸い上げる。
「やっ…、やぁ…っ」
ペコはジェイの舌の動きに震え、もどかしげに腕を開こうとするが、そのたびに拘束されているということを思い出して狼狽する。ジェイの手がもう片方の突起を探り、きつくこすりあげたとたんに、体のなかを電流が走り抜けた。
「やっ…だ、ジェイ…っ」
「嫌なの?」
ジェイは顔を上げ、にやにや笑ったままペコをみつめる。そうしてペコの下半身に手を差し伸べ、
「あん…!」
「ここはいいって言ってるけど?」
そう言って熱いため息を吐くペコにそっと口付けた。狭いズボンのなかでペコのものはおずおずと立ち上がろうとしている。そっと撫でさするジェイの手の感覚がもどかしくてたまらず、思わずペコは腰をよじった。
「あ…っ、…はぁ…っ」
首筋をちろちろと舌で舐め上げられ、耳元をくすぐられ、ペコはたまらずジェイの腕に両手でしがみついた。
「や…っ、んぅっ」
吐く息が熱い。どこに触れられても、どういうわけかいつもより感じてしまう。髪に触れるジェイの手にすら快感を覚えた。
「すごくいやらしい顔してる…」
「……っ」
「その人にもそんな顔してみせたの?」
「知らねえ、よ…っ」
ペコは恥ずかしくなってきつく目をつむるとうつむいてしまった。ジェイはベッドに腰かけ、ペコの熱い体を抱きしめると、そっとペコの顔を持ち上げて唇を重ねた。すがるように舌を絡めながらペコは息を乱れさせ、下半身のうずきに耐えられずに、ジェイの腕を取って導いてみせる。
「ね…触って…」
しかしジェイはそれにあらがい、笑いながらペコの体をベッドに押し倒した。そうしてまた唇を重ね、ペコの足をベッドに上げる。唇を離すと首筋をきつく吸い、うなじを探り、腕を下にしたままペコの体をうつ伏せた。
「あん…っ、あっ、…んっ、」
胸元をまさぐりながらペコの背中にキスを繰り返す。触れてもらえない下半身がもどかしくてたまらず、ペコは思わず誘うように腰を振ってしまう。
「や…っ、ね、ジェイ…ってば」
やがてジェイは無言でペコのベルトに手をかけ、ジッパーをおろした。そうしてペコの背中に覆いかぶさるようにして、
「自分でしてみたら?」
そう耳元でささやいた。
「やだ…!」
ペコはシーツに顔を押し付け、ぎゅうと目をつぶる。そうするあいだにもジェイの手は胸を探り、突起に触れ、指先でもてあそんでいる。
「やっ、や…っ、ジェイ…!」
「ズボンが邪魔ならおろしてあげるよ」
「やぁ…っ」
思わず涙ぐみながら顔を上げるが、ジェイは耳元でくすくすと笑うばかりだ。
既に吐く息は乱れ、下半身は刺激を求めて震えている。いつまで経ってもジェイは触れてくれない。やがてどうにもこらえきれなくなり、ペコは恐る恐る腕を伸ばして、そっと下着のなかに手を差し入れた。
「あ…っ、ん……はぁ…!」
既に大きくなっていたものはしっとりと濡れて指に吸い付いた。先端を刺激し、指先でもどかしげに握り、ゆっくりと上下にさする。せき止められていた快感が体の芯を突き抜け、とたんに止まらなくなった。
「は…っあ、あ…! んぅ…っ、…ふ…っ」
ジェイがズボンを下着ごと引きおろす。そうして自由になったものを手のひらで包み、ペコは更に激しくしごいてみせた。
「あっ、…あん! や…ぁ…っ、は…!」
ジェイはベッドに横になりながら、そんなペコの顔をじっと楽しそうに眺めている。頭を撫でてはそっとキスをし、そうしてまた横顔をみつめる。
「や…っ、見んな、よぉ…あぁ!」
「気持ちいい?」
「あ…ぁ…っ、はあ…! あ…っ、やっ、ジェイ…っ」
「なに?」
「あん…っ、…ね、…っん、ジェイ…してよぉ…」
「なんで」
「やぁ…! ジェイ…ってば…あ…! あん…!」
髪をまさぐるジェイの手は熱い。乱れた息を吐き出しながら、ペコはひたすら達することだけ考え、手を動かし続けた。
「あ…っ、あ…! やん…っ、も…出ちゃう、よぉ…っ」
「…いいよ、出しても」
「あん…! あ…っ、…ジェイぃ…!」
ペコはシーツにぎゅうと顔を押し付けて目をきつくつむる。そうしながらもまたすぐに目を開けて、あえぐように息を吸い、熱い息を吐く。高く突き出した腰も足も快感のために打ち震え、甲高い悲鳴と共に、ただ最後の時を目指している。
「はぁ…! あっ、あ…! 駄目…、あんっ、も…イクぅ…っ!」
そうしてペコはか細い悲鳴をあげながら熱を吐き出した。肩を震わせ、わずかに涙をこぼし、手のひらへと流れ落ちる自らの欲望の熱さに茫然としたように宙をみつめている。しゃくり上げるかのように息を吸い、そうして全身の力をわずかずつ抜きながらゆっくりと息を吐き出した。
両肩を抱えられてペコは体を起こした。力の入らない腕でなんとか体を支え、重ねられたジェイの唇の感触をどこか遠くに感じている。
「ペコのオナニー、初観戦」
そう言ってジェイは笑った。
「…ジェイのバカ…」