指の数を増やしながら徐々に入口を広げてゆく。孔のなかはひどく熱い。時折体が震え、指をきつく締め上げた。慣れてるなとふと思い、そのとたんに、激しい嫉妬が湧き起こるのを感じた。
――なんで?
理由は自分でもわからなかった。ただ突然怒りのような感情に支配され、どうにも止まらなくなった。指を引き抜いてジーパンを脱ぎ捨てると自分のものを孔にあてがい、一気に突き入れた。
「や…あっ!」
「力抜けよ」
噛みしめた孔の歯をこじあけると、指を差し入れて息を吐かせる。孔のものに手を触れ、ふと力が抜けた瞬間に更に奥へと突き進んだ。
「あぁ…あ…、や…っ」
「嫌でこんなになるんだ」
そう言って孔のものを指ですっと撫で上げた。びくりと背中が震えて、耐えるようにシーツを握りしめる。
「嫌ならやめる?」
「や…、」
「どっちだよ」
乱暴な手付きで孔の頭を撫でながら、目の端に涙をにじませた孔をひどくいとおしいと思い、同時にひどく憎らしいとも思う。答えを待つあいだにスマイルは孔の背中に覆いかぶさり、うなじをきつく吸い上げる。熱い息を切れ切れに吐き出しながら、やがて孔が呟いた。
「…嫌は、違う」
「――そういう時はなんて言うか教えてあげようか」
怯えたような横顔に、残酷な想いをいたく掻き立てられた。
「『もっとして』って言うんだよ、甘えた声でさ」
「……っ」
「ほら、言ってみなよ」
孔は再び唇を噛みしめて目をつむり、小さく首を振った。
「言わなきゃ、ずっとこのまんまだよ」
「……月本っ」
「なんだよ」
じらすかのようにスマイルは耳元を舐め、孔の髪をかき上げた。そのままうなじから肩口へと舌を這わせながら、こんなことしたってどうしようもないのにとふと悲しくなった。
不意に腰を引いてゆっくりと突き上げる。孔が安堵のため息を吐いて緊張を解くのがわかった。
「あ…っ、あ…ん、」
体の奥で肉がこすれあう感触に、孔は恍惚の表情を浮かべ、シーツに爪を立てた。腰から肩へと落ちる背筋のラインをそっと手で撫でさすり、スマイルはそのまま孔の髪をつかむ。そうして首筋に唇を這わせて、また動きを止めてしまった。
「言わないの?」
耳元でささやくと、孔が小さく悲鳴をあげた。孔のなかでスマイル自身はひどく熱を持ち、大きく膨れ上がっていた。孔が拒めば拒むほどに熱が増す。そうして、もっとひどくしてやりたいという欲求に、我を忘れそうになる。
「……して…」
噛みしめた孔の唇から、かすかな呟きが洩れた。
「聞こえないよ」
「――っ、」
吐く息は大きく乱れ、腰はせがむようにわずかに揺れている。すがるように潤んだ瞳で孔がこちらを見上げた。スマイルは慰めるように微笑みながら頭を撫でて、
「聞こえないって言っただろ」
ぎゅうと孔の髪をつかみ上げた。痛みにあえぎながらも、どこか陶酔したような顔で孔は宙をみつめ、
「もっと、して…!」
そう言って涙をこぼした。スマイルはその涙の流れたあとにそっと口付けると髪から手を離し、孔の体を後ろから強く抱きしめた。孔はただ荒い息を吐いてされるままになっている。
「よく出来ました」
「早く…!」
せがむように腰を動かして、孔はシーツに顔をうずめる。スマイルは孔の首筋をきつく吸い上げると腕を離して一気に突き上げた。
「あっ! あんっ、は…あっ!」
歓喜の悲鳴をあげて孔は体を震わせる。シーツにしがみついてひたすら嬌声を上げた。
「あぁ…っ、あんっ、ん! はっ…っや、」
「そんなに締めると、痛いよ…」
「やだ…っ、ちが、あ…っ! あん…っ」
共に夢中になって腰を動かしながら、ただ終わることだけを考える。それは至福の時でありながらも、どこか心のなかが醒めている。スマイルは孔の痩せた肩をみつめ、そっと手を伸ばして握りしめた。そうしてベッドに強く押し付けたままひたすら腰を打ちつけた。
「ああ…っあ、は…! …っあ、あ…っ!」
終わりの時が近い。孔はひたすら首を振り、背中をのけぞらせ、歓喜のなかで時折苦しそうな表情を見せる。また涙がこぼれ落ち、あえぐように開いた口からはとめどもなく悲鳴が洩れ続けた。
――なにしてんだろ。
現実から遠く離れた場所で、スマイルは自分をみつめてそう思う。体は熱く、まるで壊そうとするかのような勢いで腰を打ちつけ、快感の波に溺れながらも、それはひどく遠い世界の出来事であるように思えた。
「はっ…、あん…っ! あっ、…あっ!」
孔の悲鳴がかすれ、ベッドに押し付けられながら大きく首をのけぞらせた。逃げ場を求めるようにかすかに伸ばされた手は宙を掻き、空手のままぎゅうと握りしめられる。そうして孔の体が震えた拍子にスマイルは熱を吐き出し、肩をつかんだ手に痛いほど力を込める。
同じように体を震わせながらスマイルはゆっくりと孔の上に覆いかぶさり、首筋をきつく吸い上げる。そうしておきながらも、目の前に居るのが誰なのか、一瞬だけスマイルは忘れた。