そうしてまた二人は一つになる。最後の時を惜しむかのように互いの体をむさぼりあい、強く抱きしめ、熱い息を吐いては口付けを交わす。
「あ…っ、は…あっ」
　スマイルのあまりの情熱の深さに耐えられないとでもいうかのように、ペコは背中をのけぞらせて悲鳴をあげた。腕にしがみつく手のひらがひどく熱くて、いっそのこと、今この瞬間に殺してくれとスマイルは思う。
　この歓喜のなかで息絶えることが出来たら、どれほど幸せだろう。
「ペコ」
　何度も名前を呼んでは唇を重ねた。手放したくないと思うのに、手放すことが唯一相手を幸せに出来ることであるなら、自分はどうしたらいいのだろう。幾度口付けを交わしても、胸のなかの迷いは消えない。
「ペコ」
「…泣くなよ」
「泣いてないよ」
「うそつき野郎」
「うん…」
　慰めるかのように頬に触れたペコの手を取って、スマイルは唇に強く押し当てる。
　この身のなかに閉じ込めてしまいたいといつも思う。どこへもやらず、誰の目にも触れさせず、ただ一人だけでいつまでも存分に愛し尽くしたいと思うのに。
「ペコ」
　呟いた声が震えていた。ペコの手が逃げて、ふと頭を撫でた。そうしてそっと抱き寄せられて、スマイルは熱いため息をつく。
「お前が好きだ」
「うん」
「好きだよ、スマイル」
「うん…」
　痩せた肩に唇を触れて、欲望のおもむくままにきつく吸い上げる。いつかは消えてしまう朱色の刻印をペコの体のあちこちに散らしながら、やがて、耐え切れなくなってその肩に噛み付いた。
「……っ、食うなよ」
「食べたい」
　この身に溶けて、一つになりたい。
　ふと顔を上げると、ペコはなにも言わないまま、ただ寂しそうに笑っていた。しょうがねえなあ、そんなふうないつもの笑顔が、たまらなく悲しかった。
　悲しくて、どこへもぶつけられない。
「あ…っ」
　不意の動きにペコは体を震わせた。そうしてこらえるかのように手で口を覆う。
「んっ、ん…っ、はっ…」
「――隠すなよ」
　突然激しい怒りを覚えてスマイルはペコの手を払う。そうして両手をつかんで身動きが取れないようにしておきながら、激しく腰を突き上げた。
「あっ！　はあっ…、あ…や、スマイ、ル…っ」
「なにが嫌なんだよ、そんないい声出して」
「ちが…あっ、あんっ！　あっ！」
「ほら、もっと声聞かせてよ」
　容赦のない突き上げにペコはたまらなくなって嫌々をするように首を振った。きつく噛みしめた唇からは、それでも耐え切れずに甘い声が幾度も洩れる。
「は…あっ、あんっ、あっ…んっ！」
「ペコの淫乱」
「やっ…！」
　耳に舌先を入れながらささやくと、ペコは怯えたように身をすくめた。そうしながら、腹に当たるペコのものが一段と熱を持つのがわかった。
「感じてるよ」
「やだ…ぁっ、言うな、よ…あ…っ」
「いじめられて感じてるんだ…ホントにいやらしいね」
「……っ、ちが、ん…、あっ、あ…っ！」
　のけぞったペコの首筋に唇を当てると舌先で舐めあげる。そのたびにペコの体は揺れて、喉を嗄らすほどの悲鳴が上がった。
「やぁ…っ、あ、はっ…っあ、あ！」
　歓喜の涙が――悲しみの涙か――ペコの瞳からこぼれ落ちた。
　その涙のわけはスマイルにはわからない。こうして深く一つにつながりあっていても、いつだってペコは自分ではない。
　いつだってそばに居ながら、ペコの気持ちは自分の手には入らない。
「や…やっ、も…スマイル…っ、」
「まだ駄目」
「やだ…っ、も、イク…っ！」
「駄目だって言ってるだろ…」
　そう言いながらも、更に激しく腰を使い、自らも達しようとする。終わりが近いことを証明するかのように、ペコがきつくスマイルを締め上げる。その感触に、たまらなく残酷な想いを掻き立てられる。
「はあっ、あっ…あ、あっ！」
　わずかな時間差で互いに精を吐き出しながら、スマイルは胸の奥に埋めようのない大きな穴が生まれたことを知った。ペコをいとしいと思えば思うほどにその穴は大きく広がり、スマイルの喜びを奪い取ってしまう。
　――人を愛することがこんなにも苦しいものなら、
　痛いほどにペコの体を抱きしめて、熱い息を吐き出しながら悲しい想いでスマイルは考える。
　――何故神様は人に心なんて与えたんだ…。