足立は孝介の体を抱き締め、ベッドに横になった。枕を譲ってやり、自分は腕枕で孝介の顔を見上げ、ゆっくりと髪を梳く。枕に顔の半分を押し付けた孝介は足立の指が動くたびに、くすぐったそうに笑った。
「なんか、いつもと違う感じに見える」
「そう?」
 そのままじっと見られるので、なに、と足立は訊いた。
「寝てる時の足立さんって、なんか知らない人みたいに見えるんですよ」
「知らない人?」
「はい」
 孝介が枕を半分押しやってきた。足立は枕に頭を乗せ、孝介が落ちてしまわないようきつく抱き締めた。
「そんなに顔違う?」
「違うっていうか……普段あんまり見ない表情してる」
「どんな表情?」
 うつむいた恰好で喋られるので、孝介の息が首元に掛かってくすぐったい。少しだけ身を離すと、孝介は不安そうに目を上げた。
「凄く真面目そうな顔」
「…………え、なにそれ。普段は全然真面目じゃないってこと?」
「そういうわけじゃなくって」
「いやだってそういうことでしょ? 寝てる時は普段見ない顔してるんだから、いつもは全然真面目そうじゃないってことでしょ? 違うの?」
「それは」
「なに、いつもの僕は駄目ってこと? え、なにこれ、もしかして僕フラれるの!? まさかすっごく真面目でかっこいい誰かに乗り換えようとかって――」
「いいから落ち着け」
「あだっ!」
 額にデコピンを喰らっておとなしく口を閉じた。頭突きが来なかっただけまだ幸せだ。
 孝介は呆れたように一度息を吐いた。そうしてためらってから、
「全然見ないってわけじゃないんですよ」
 そう言って枕に頭を乗せ直した。
「そうなの?」
「……最近はよく見ます。何か考えてるみたいな顔」
「僕が?」
 孝介は小さくうなずいた。心配そうな目が、何かを探るようにこっちをみつめている。足立は小さく笑い返してまた孝介の髪を梳き始めた。
「何か心配事でもあるんですか?」
「心配事? ないよ、別に」
「……嘘だ」
「嘘じゃないってば」
「……」
 何かを呟いたようだが聞こえなかった。やがて孝介は足立の手を逃れて身を起こした。
「……俺じゃ頼りになりませんか?」
「……」
「そりゃ年下だし未成年だし、出来ることなんて殆どないかも知れませんけど、でも俺――」
「やぁらしぃなぁ」
「え?」
 裾をどこかに引っ掛けたらしく、シャツの片側が肩から落ちそうになっていた。視線に気付いた孝介が直そうとするよりも早く足立は腕を伸ばし、孝介の体をベッドに横たえ、上にのしかかった。
「そんな格好で迫られちゃったら、元気出さないわけにはいかないでしょ?」
「……も、足立さんっ」
「心配ならしてるよ」
 足立の呟きに、孝介は抵抗をやめた。不安そうな目をまっすぐに向けてくる。足立は口の端を持ち上げて小さく笑い、
「また君が怪我するんじゃないかって、いっつも心配してる」
「……」
 孝介は気まずそうに目をそらせた。足立はその額に唇を触れ、ゆっくりと髪を梳いた。
「お願いだから無茶しないで」
 自分でも驚くほど真剣な声が出た。
 孝介はしばらく無言だった。やがてこっちに向き直り、まるで叱られた子供のような声で小さく、ごめんなさいと呟いた。足立は満面の笑みで孝介を抱き締めた。背中に伸びた手が最初はためらいながら、やがてしっかりと抱き付いてきた。


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