スマイルの家のドアを開けると、なにが楽しいのかスマイルが妙に嬉しそうに笑いながら立っていた。ペコが少し気後れしたふうに「よう」と言うと、
「いらっしゃい。――はい」
 そう言って背後に隠していた大きなケーキの箱を取り出してみせた。
「…あに、これ」
「プレゼント」
「は?」
 受け取ってなかをのぞくと、入っているのはケーキではなくてどうやらたくさんのお菓子のようだった。ペコは思わず歓喜の悲鳴をあげて箱をがしがしと揺すった。大きな箱一杯に駄菓子が詰まっている。ペコにとっては夢のような贈り物だった。
「なんで? いいんすか、もらっちゃっても」
「いいよ。誕生日だろ? 今日」
「――あ」
 ペコは茫然とスマイルの顔をみつめた。恥ずかしい話ながらすっかり忘れていた。
「そういやぁそうだ、俺、今日誕生日だわ」
「忘れてたの?」
 去年あんなに騒いだ癖にとスマイルも苦笑する。靴を脱いで板間に上がりながら「だってよお」とペコはぼやきかけ、
「なに?」
「…なんでもね」
 正直、そんなことなど考えている余裕はなかった。
 来年の春には渡独が待ち構えている。着々と準備を進めながらも、それは同時にスマイルと離れる為の仕度なのだと考えたら、思わず全ての手が止まってしまう。だからなにも考えずにいた。自分の誕生日ですら忘れてしまうほどに。
「まぁささやかだけど」
 スマイルは料理と酒を用意しておいてくれた。缶ビールで乾杯をして、二人きりの誕生会が静かに開始された。
「…なんか、悪ぃよな」
「なんで? なにが?」
「だって俺、お前の誕生日、なんもしてやってねぇし」
「いいよ、別に」
 スマイルは苦笑しながら箸を伸ばす。「でもさぁ」と言うと、スマイルはふと手を止めて、なにを思い付いたのか急ににやにや笑い出した。
「じゃあさ、プレゼントねだってもいい?」
「いいよ。なんでも来なさい」
「じゃあ――はい」
 そう言ってスマイルはあごを突き出した。
「…あに?」
「お礼のキス。二回」
「二回も!?」
「嫌? じゃあ三回」
「増えんのかよ!? ……わぁった、二回」
 ペコは缶を置いて渋々立ち上がり、スマイルの目の前に座り直す。
「――目、閉じる」
「はいはい」
 笑いを抑え切れないといった風のスマイルは、それでも静かに目を閉じた。ペコは恥ずかしさをこらえながら唇を重ねて離し、また触れた。
 その瞬間、有無を言わさぬ勢いで抱きしめられた。


ペコ:片瀬高校三年十二月


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